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 生月学講座 No.109「かくれキリシタンのお葬式」

 平成5年に生月町に採用されて以来、信者の方々のご厚意で、かくれキリシタン信仰の行事をたくさん拝見させていただきました。津元・垣内など組で行われる行事は相談が比較的し易かったのですが、個人(家)のレベルで行われる死に関わる行事などは話も切りだし難く、聞き取りで情報を補う形が長く続きました。近年、法事については個人的に見学を許していただけるようになりましたが、葬儀に関する諸行事は、やはりご不幸に関わる事という遠慮もあって、切り出す事もできませんでした。しかし反面、きちんとした情報を持っていないと来館者などにきちんと説明出来ない所もあり、ジレンマを感じてもいました。平成20年、島内の若手有志が立ち上げたNPO法人「いきつきドットコム」が、生月島の貴重な文化遺産の保存に何らかの協力をしたいと申し出てくれました。そこで話し合った結果、葬儀の中で最も重要な行事である「風離し」と「戻し」について、行事を再現する事を思いつきました。実は信者の方々からも、御爺役だけが内容を記憶しているそれらの行事が、何らかの理由で継承出来なかった場合、葬儀が全く出来なくなる心配について相談されていました。信者の方々に主旨を理解いただいた上で御参加いただき、ご遺体は館の展示用のマネキンに死装束を着せて布団に寝かせ、喪主は若手の1人が演じて行事を再現し、記録に残す事が出来ました。

 生月島の壱部では、かくれキリシタンの信者が亡くなると、最初に、数人のゴジョウ人(オラショを唱える男性信者)が葬家に来て、病を引き起こした〈悪いカゼ〉を祓い出すための行事「風離し」を行います。布団に寝かされたご遺体を3人のゴショウ人が囲んで座り、ミジリメンというオラショを唱えながら、1人がオテンペンシャ(麻紐を束ねたもので、元は苦行の鞭)で祓い、1人がお水(聖水)を打って清めます。もう1人はミジリメンが一回終わる度に、煎った大豆を一粒ずつ四方に飛ばしていきます。風離しが終わると、3人で一通りのオラショを唱えますが、これには死者のアニマ(魂)が天のパライゾに向かうための「道均し」の意味があります。

 そのあと御爺役が葬家に出向き、死者のアニマ(魂)を天のパライゾに送る行事「戻し方」を行います。その時はご遺体の傍らに喪主と御爺役が並んで座り、御爺役は葬儀のための特別な祈りを唱える他、ご遺体に聖水を振り、蝋燭の灯りをかざします。

 生月島のかくれキリシタン信者の葬式には、寺院の方も関与しています。枕経を上げる他、本葬も僧侶が執行し、戒名を授けます。野辺行列は、竜頭や多くの幟旗が登場し、棺を乗せた輿にゼンノツナを付けるなど、基本的には仏式の作法で行われます。一方、壱部のかくれ信仰の方では、野辺行列出立後の葬家で「祓い出し」が行われます。これは葬儀の不浄を祓うための行事で、正月に行われていた「屋祓い」の行事と同じ様に、ミジリメンというオラショを唱えながら家内を回り、お水とオテンペンシャで祓います。また一緒に「三日詣り」のためのオラショも唱えられます。

生月島のかくれキリシタン信者の葬儀では、かくれ信仰と仏式の行事が相互に行われるため、一見すると混交しているような印象を受けますが、流れで見ていくと、それぞれの葬送儀礼を一通り行っており、並立的(二重)な形態である事が分かりました。